40KBの夢

メーカー, 業界ネタ

2008年に、新台レポート会員へ向けて書いたレポートです。特定のメーカー名を出していますが、誹謗中傷を行うものではありません。あくまでも外部から感じる事をそのまま書いているとご理解ください。

今読み返すとトンチンカンな部分もありますが、テスト投稿ですので、大意を汲み取っていただければ幸いです。

 

 

魚からの脱却と京楽の爆弾

パチンコは長らく魚群に支配されてきました。あれだけのヒット機種ならば、その要素を模倣することでヒット機種は生まれるはずだと。停止秒数や群予告のタイミングなどを数値的に分析することで、「ヒットの特効薬」「ヒットの攻略法」を探そうとしました。

しかし、そのたくらみは全て失敗に終わります。海です@西陣は本家の海物語そのものであったにもかかわらず、ファンは偽海と判定しました。

 

海物語は三洋でしか成立しない。
ホールもメーカーも、皆そう思ったでしょう。新海、大海と出す過程において、三洋物産もそう信じました。しかし、カリブの低評価で、海=三洋=安心という図式さえ崩れたのです。

「ファンの気持ちが分からない」

そんな中、京楽は事実上の天下を取ります。系統立てられた予告やリーチ、濃い演出の絶妙な振り分け。その申し子たる必殺仕事人は3代目にして初めて30万台の壁を突破しました。

30万台という数値は海物語でしか出せないと思われていただけに、京楽の地力は皆が認めることになりました。可愛らしく動くSDキャラ、ステップアップ予告、ゼブラ柄、隠しボタン等々、いわゆる京楽的スタイルを構築し、その作り込みをもってホール業界に「京楽はナンバーワン」という認識を植え付けます。

 

ここに京楽は一つの爆弾を残しました。確実なヒットを見込めた必殺と初代冬ソナを非常に甘いスペックで出したのです。スペックが甘ければ、ホールがどんなに閉めてもある程度は出てしまう。ファンは京楽の機械は甘いと判断し、打ち続ける。「海物語だけは甘く使われるから有利」という、ライバル機種最大のメリットを奪い取ったのです。

 

これに対して他メーカーは一斉に追随しました。「京楽みたいに甘いスペックならばホールは甘く使うしファンからも支持される」と。かつて海物語みたいな機械を作ればヒットすると信じたのと、全く同じ思考回路で追随したのです。

しかし、当然ながらそうは問屋がおろしません。必殺より甘いスペックで出した世界名作劇場@銀座は、第一週から15000円近い台粗を記録し、甘いスペックだからホールも閉め切れないという幻想を打ち砕きました。

京楽の仕掛けた罠とは知らず、どのメーカーも甘いスペックという京楽爆弾を抱えた機種を発売します。あろうことか三洋物産さえも甘いスペックを用意するようになり、最新機種の加山雄三を見る限り、いまだ京楽シンドロームの中にいるようです。

 

 

◆ヒットを追わないニューギン

これに対して真っ向から反旗を翻したのがニューギン。徹底して辛いスペックで出し続け、花の慶次においてその花を咲かせます。

ニューギンはどんな踏み絵をやってもホールの反感を買いにくいことをご存知でしょうか。稼働貢献が5週だろうが6週だろうが、機械代を回収できないということがないからです。

誰がどう見てもクソ台である機械でも、価格が白枠20万円ならばホールは踏み絵に躊躇しません。クソ台だったけど買って良かったとなります。

 

突通や小当りを使った誤魔化しと揶揄されつつも、ヒットメーカーのスペックを追わなかったことで、京楽爆弾の被害に合わずに済みました。

魚の尻尾を捕まえた京楽。激辛スペックでホールの支持を集めたニューギン。両者に共通するのは過剰ともいえるほどの演出でしょう。

 

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ニューギンのアンルイスなどは、ヒットすると思った人の方が少ないはずです。分かりにくい図柄ライン、少ない確変図柄、大当り中の確変抽選、版権とあまりにもかけ離れた中世の魔法世界。これらのマイナス要素を圧倒的な画像エフェクトで引っ張りました。

慶次同様、画像は拡大しすぎてボヤけているにもかかわらず、ファンはその迫力に酔ったのです。予告・リーチ・通常時の画像エフェクトなど、視覚に訴える情報量を増やすことが稼働に直結しました。

偽海でありながらそこそこの稼働を維持した新野生の王国も同様ですね。

 

 

◆足し算的発想とは

京楽とニューギン。そしてエヴァンゲリオンで同様の方向に突き進むSANKYO。高尾も、ダイコクが時間をかけて作った機械であるカイジやスパイダーマンについては、ある共通する傾向があります。

これら現代パチンコの成功例を一言で表すならば「足し算」で出来ている、ということ。

 

ステップアップ予告+ゼブラ柄+突確+多モード+群予告+版権に沿ったテーマソング+剛剣的フラッシュ+SDキャラ+小当りetc……まるでチェックリストでもあるのか、どの機械も同じように用意され、重ねていく演出。

画像チップの容量が1G、2G、4Gと伸び、いつの間にかパチンコは、要素を詰め込むことに力点が移ってしまった。つまり、要素の「足し算」になったのです。

昔は容量不足で泣く泣く削った演出の数々が、今は「せっかく作ったし」と詰め込まれてしまう。

 

ここで素人ながらに考えます。ひょっとして、1つのこと、自社の特徴しか表現できていない機械より、3つ4つと他メーカーのヒット要素を詰め込んでいる機械の方が、企画は通りやすいのではないかと。特に、失敗のできない案件、マスを取らねばならない案件であれば、なおのこと要素の詰まった案が選ばれるのでは?

A案は当社独自の要素だけ
B案はA案に京楽の人気スペックを加えたもの
C案はB案にニューギンの潜伏確変を加えたもの
D案はC案にSANKYOの役モノを……

と、なった場合、通る企画はD案でしょう。沢山の要素を器用に盛り込んだ企画の方が役員受けがいい、という発想になっているように見えます。たとえば、藤商事のゴースト。

 

 

◆藤商事の足し算的発想

ゴーストの開発に入ったと思われる頃、藤商事は上場時にぶち上げたFUJI3.0の延長線上で、何が何でもマスの支持を取りつけねばなりませんでした。

ところが今まで大ヒットを出せていなかったゆえに、飛躍とその理由が分からない。よって他メーカーの、ベンチマークとなる機械が必要になります。

当時のヒット作は冬ソナ。じゃあ、冬ソナを因数分解して要素を取り出しましょうということになったのではないでしょうか。

 

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役員が取ってきた感満点の版権、ゴースト。あ、これって冬ソナと同じ恋愛モノじゃん。ならば白を基調にした役モノにして、白く輝く回転体をフラッシュさせ、ステップアップや演出のタイミングも冬ソナにしちまおうと。

盤面単価を無視したって、市場から評価されている京楽的な要素を多数盛り込んだため企画も通りやすよねと。

これ、方法論としてはアリなのかもしれないけれど、出来た物が面白いかと言えばそんなことはありません。それはSISが雄弁に物語っています。

京楽を真似る、ニューギンを真似るとは、「足し算的発想」で作ることになるのです。要素を詰め込むだけでは、牙狼もパトラッシュも誕生しないでしょう。そこには必ず「発想の飛躍」が必要です。

 

 

◆足し算の反対は飛躍

ゴーストのように、前例に答えを求めたり、市場のニーズを探したりし過ぎると、足し算的な発想となります。足し算の怖さは、うっかりヒットしたりすると二度と飛躍を目指さなくなる点。

しかも困った事に、自分はオリジナリティがあると勘違いしやすい点。前例がない、市場のニーズなんてあるかどうかわからないところに、飛躍があります。もちろん失敗が多いでしょう。というより失敗ばかりでしょう。

でも、この飛躍こそがパチンコの面白さであり、ファンの心のATフィールドを破るきっかけになったりします。

 

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激辛スペック&三色ドットという、一見するとヒットしようがなかったマルホンのシャカラッシュ。一説によると、開発陣は社内において相当の逆風にさらされたそうです。

マルホン自身すら信じていなかったシャカラッシュは、台の前で手を合わせるお祖母ちゃんがいるという珍現象すら生み出しました。

そして、打った事のある方は分かると思いますが、パトラッシュの丸パクリじゃないんですね。要素はあるけれども、きちんと昇華し、自分達の飛躍を乗せた。

 

パチンコを打たない経営層はクリエイターたちの思いをなかなか汲み取れない。他社の真似や要素の積み上げを求める人がまだまだ多いということでしょう。

 

迫る納期、使えない表現手法、理解のない経営陣。画像処理能力は上がっているけれど、パチンコはどんどん不自由になっているように感じます。

猛烈な制限から生まれた飛躍の喜び、ツボを突く快感、自由な発想の機械は、業界初!と謳わずとも、拍手喝采の高稼働という形になって表れます。逆に低稼働だった場合は、業界初が何の意味もなかったということですね。

 

かつて先人達は、1300発規制の中でこぼし込みを生みました。こぼし込み規制の中で保留玉連チャンを生みました。連チャン規制やCR化の中で突確を生み、潜伏を生み、ステップアップボーナスを生みました。

「あんなのはやろうと思えばできる」

確かにその通りかもしれないけれど、ならばやってみろという話ですね。作れてないんだから、できるなんて言ったって負け惜しみです。

 

 

◆40KBの夢

しかし、飛躍というのはややもすると「悪ノリ」「暴走」「何でもアリ」につながります。ゆえに、盛り込んだ飛躍が正しかったかどうかの検証は絶対に必要。

自分達で分からなければ、リサーチ会社やアンケートを通じて、飛躍の要素は支持されたのかを調査せねばなりません。そのうえで、不必要な飛躍は削除する。

今度は「引き算」です。開発に携わる人にとっては釈迦に説法となりますし、とっくにご存知かもしれませんが、少しだけ書きたい事があります。

 

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かつてファミリーコンピューターの代表ゲームだったスーパーマリオブラザーズ。この容量はなんと40KBでした。

エロ画像1枚分にも満たないデータ容量でしかないんですね。それで国内681万本、全世界4024万本を売り上げ、世界一売れたゲームとしてギネスブックに登録されました。

当時のゲーム開発者の仕事は主に引き算です。容量内、枠内に全てを納めるために、色々な物を諦める。やりたかったこと、見せたかった演出、全部そぎ落とす。

ところが、時々出てくるんですね。飛躍が。どうしても引きたくない譲れない一線を盛り込もうとあがいている時、待てよと。ここをこう工夫すれば、諦めないで済むんじゃね? みたいな。

 

 

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当時のゲームにおける容量制限は凄まじく、スーパーマリオも例外ではなかった。上の写真をご覧いただこう。二つの雲のうち右側は下半分しか表示されていない。上半分はどこにあるかというと、右端の草へ流用しているのだ。こうやって容量を削りに削り、生み出されたのがスーパーマリオなのである。現在とは完全に逆の発想だ。少ない容量の中でどれだけ盛り込めるかに力を注ぐから、中身の濃い商品となる。

 

また、スーパーマリオはゲームの遊技時間にも革命をもたらしました。プレイヤーの気分次第で、早くも遅くもできる。タイムトライアルと完全クリアを一本で実現しています。

8ステージ×4ブロックという長尺で短時間遊技を可能にするため土管ワープや、Bダッシュを採用。完全クリアを志す人のために、空中で方向転換をできるようにして動きに自由度を持たせた。

そして、アクションゲームでありなが明確なエンディングを持たせることで、短時間・長時間を問わず、ご褒美としての充実感をプレイヤーに与えました。

 

譲れない飛躍のみを残し、限界まで引き算で削り落す。飛躍と引き算の繰り返しで生まれたスーパーマリオは日本だけにとどまらず、世界中の子供たちを熱狂させました。

わずか40KBが彼らに夢を与え、育み、次世代のゲームクリエイターを育てたのです。

 

 

◆必要なのは引き算

飽和状態の携帯電話業界において、月間純増数で22か月連続首位に立ち、巨人NTTドコモに苦汁を飲ませ続けるソフトバンクモバイルは、快走の理由を「830P」だと言います。

鳴り物入りで登場したアイフォーンではなく、ワンセグもBluetoothも付いていないシンプル携帯群が、同社の利益を支えています。

 

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ジャパネットたかたの高田明社長は指摘します。

「うちの商品は業界初の多機能が目白押しです! というメーカーさんがいる。ほんと、分かってないなと思います。もう多機能では売りにくいんですよ。不況だからこそメーカーの方には、商品価値と機能のバランスを再検討してほしいと思うのです」

 

足し算で豪華になりすぎた商品。そこに発想の飛躍を織り交ぜると、無駄なぜい肉が見えてくる。ぜい肉を引き算することで、お客様が真に望むことを望むままに提供できる。

すると、伝わりにくかった面白さが、素材のままシンプルに、プレイヤーの心へ届く。スーパーマリオのように、世界を熱狂させる。

 

  • 業界初!
  • 8ギガメモリ!
  • ○○機能搭載!
  • 5つのモードがファンを刺激する!
  • 情報ウィンドウでリーチアクションを分かりやすく解説!

カタログに踊りがちな文言ですが、これ、多分、プレイヤーに届いていませんよ。

 

模倣メーカーは、ヒット機種の飛躍部分をそのまま、自社商品に足し算します。しかしその先が問題。ヒットメーカーは飛躍後の引き算を行えるけれど、模倣メーカーは足し算として搭載しただけだから飛躍後の「理由のある引き算」を行えない。

飛躍に至る理由を知らないから、何が必要で何が不要か分からない。自力で飛躍していないから、引くべきことが分からずに足し算だけを繰り返すわけです。

 

もしも「容量を1/10に落とせ」と言われた時、今のパチンコメーカーは、面白さの要素を残せるのでしょうか。「40KBで作れ」と言われた時、後のクリエイターを育てるほどの熱狂をプレイヤーに与えられるのでしょうか。

美麗液晶を見るにつけ、強い危惧を抱かずにはいられません。

 

 

◆夢をあきらめない

残念なのは、自分達で飛躍しておきながら、面白さの要素だと分からずに捨ててしまった例が散見されるという点。

かつて藤商事は渡り鳥AKIRAにおいてランクアップボーナスを採用しました。サンダーバードにおいては潜伏確変を採用しました。両機種は残念ながらヒットせず、藤商事はせっかく編み出した飛躍の要素をすぐに捨ててしまいました。

これを拾ったのがニューギンです。大江戸日記、座頭市で試行錯誤を繰り返し、自身の飛躍として花の慶次を作り上げました。最初は足し算だったかもしれないけれど、要因を分析しブラッシュアップすることで、自身の飛躍とした。

 

ニューギンは時々、スペックの実験を実機でやりますよね。武豊やパロディウスなど、そのスペックはどうなんだ!?というものを突然出してきます。それは、飛躍を諦めないという姿勢です。

藤商事は京楽路線に走り無難なスペックばかり出すようになりましたが、ニューギンはトライし続けている。そこに、ニューギンの強さを感じます。

ぜひ、飛躍を含んだ、歴史に残る機械を作ってください。そして一度きりでは諦めないでほしい。

 

【足し算→飛躍→引き算→再び足し算】

このサイクルを回してほしい。
開発に終わりはないけれど、パチンコに結論は無いけれど、ファンもホールも大絶賛するような、青年達がパチンコ業界を志してしまうような機械をどうか、夢のある機械をどうか、よろしくお願いします。

 

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。偉そうにとお思いかもしれませんが、これは2年間に渡り新台の稼働予想をしてきた人間の、包み隠さぬ本音です。先日のホール向けセミナーにおいて語った、足し算→飛躍→引き算→再び足し算 という図式は、実はメーカーにこそマッチすると思い、今回の記事を作成しました。

今後も私は、新台レポート、設置後レポートを通じ、50年後も面白いパチンコを楽しむべく、仲間たちと共に活動を続けて行きたいと思います。

 

いいパチンコ有限責任事業組合
代表組合員・吉田圭志

 

 

 

メーカー, 業界ネタ

Posted by ボンペイ吉田