清くあれ 正しくあれ 1話/4

個人ネタ

あまりに暇なので、超久しぶりに小説を書いてみました。当然フィクションですし、荒唐無稽です。素人小説の常で結末もアレだったりしますけど、飛び石連休の暇な時間にでも読んでいただければと。

 

くれぐれも、「これは現実には有り得ない」とかいうツッコミは入れないでね。フィクションだから、ファンタジーだから。警察官を主人公にしてるけど、警察批判でもありません(汗)

 


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「竹津警部を警視とし、谷中警察署、署長に任ずる」

 

自身の出世を告げる言葉を、26歳のキャリア官僚・竹津は噛みしめていた。過疎の進む谷中の地から、悪を一掃せんと願う竹津にとって、署長という役職は心から望んでいたものだったからだ。

 

東京大学を卒業後に警察庁へ入庁した竹津は、警部補として9ヵ月ほど実務経験を積み、早々に警部へと昇進する。己を優秀と思うことはないものの、悪を憎み不正を許さぬ気持ちだけは人一倍強い。我が国の治安を守るためには清浄なる風俗が必要であり、それを実現することこそ自身に与えられた使命であると自認していた。

現在、赴任先の生活安全課においては、行政指導を連発する「鬼課長」として、地元パチンコ店から恐れられていた。

 

目下、竹津にとって目の上のたんこぶは、パーラーミカジメである。明らかに挙動のおかしいスロットを数多く設置するホールであり、脱税の常連企業として名を馳せ、遊技機不正に遠隔遠隔、送金に他店への発砲など、ありとあらゆる悪事を繰り返してきた。

竹津にとってこのような店は、善良な市民から大切な現金を巻き上げる「悪の集金場」にしか見えない。摘発すべく乗り込もうとしたまさにその日、早朝から顧問弁護士が警察署へやってきて、廃業届を出されたこともあった。店舗から押収したスロットは案の定真っ黒であったものの、既にミカジメは廃業しており、社長の起訴は見送られてしまった。

それからわずか1ヵ月後。顧問弁護士から提出されたのは、パチンコ店の開業届。ミカジメ社長の母親を使った名義変更であった。

 

リニューアルオープンで賑わうパーラーNEWミカジメの前では、煙草をくわえた恰幅の良い、銀縁眼鏡の社長が笑っていた。「やあやあ、元気かね竹津クン。これからもよろしく頼むよ」。そう言って高々と笑っていた。
悪は、栄えたのだ。

 

業を煮やした竹津は県警本部長を説得しようと試みる。しかし県警は、小さな街の小さな案件に興味を示さなかった。

谷中市の清浄なる風俗が脅かされている。

危機感を覚えた竹津は一計を案じ、ミカジメで働く社員やアルバイトを微罪で逮捕し始めた。時には自転車の片手運転で道交法違反、時にはカッター所持で銃刀法違反。スタッフの親兄弟にいたるまで、地道に、一つ一つ、微罪での逮捕を繰り返した。

逮捕権の乱用だと批判を受けようとも竹津は耳を貸さない。必要とあらば厳しい尋問も行った。なかでも、NEWミカジメ代表となった社長の老母への取り調べは苛烈を極め、精神的な圧迫は長期間に及んだ。ある日の朝、留置場で冷たくなっている老母が発見された。

死因は「心臓発作」とされ、親の遺体を前に泣き崩れる社長の姿を見た竹津は確信する。

 

市民を守るためには正義が必要だったのだと。

 

つづく

 

 

個人ネタ

Posted by ボンペイ吉田